微生物代謝産物の系統的分画と単離

野川 俊彦
研究員
野川 俊彦

放線菌や糸状菌などの微生物は多様な生物活性や化学構造を有する代謝産物を作り出すことで知られている。これら活性化合物はバイオプローブと呼ばれ、ケミカルバイオロジー研究には必須の化合物群である。しかし、これらの化合物群はその存在量が微量であるため、効率的に単離・精製を行うためには分画・分析技術の確立が必要である。そこで我々は微生物の代謝産物を系統的に分画する方法を検討し、さらにこれら分画物をLC/MS分析することにより代謝産物プロファイルのデータベース化を行っている。
これにより効率的な代謝産物の分画・精製だけでなく、既知物質の排除や迅速な活性物質の同定、また有用活性物質やその類縁体の単離・同定が可能となる。さらに、このようにして分画を行ったものをLC/MS解析データ付きのフラクションライブラリーとして、化合物アレイなどのハイスループットスクリーニングに供することで新しい活性を持った化合物の効率的な探索を行っている。

生理活性物質の化学合成

shimizu
上級研究員
清水 猛

ケミカルバイオロジー研究グループにおける研究、スクリーニングから医薬、農薬のシードあるいは化合物・タンパク質の相互作用解析における道具として期待される多種多様な生理活性物質が見出されています。私たちは医薬、農薬のシード化合物に対して構造活性相関研究および構造最適化を、また標的タンパク質同定、作用機作解析等に寄与することを目的としてそれらの合成、誘導化を行っています。さらに、生合成機構解明や構造決定に寄与するバイオロジー密着型の化学合成を行っています。

化合物アレイによるバイオプローブの探索

近藤恭光
専任研究員
近藤 恭光

arrayer 化学遺伝学 において、目的タンパク質の機能を調節するバイオプロー ブをハイスループットに探索する技術はとても重要であり、小分子バイオプローブの同定は、そのタンパク質の機能解析を可能にすると同時に、薬の開発にもつながっていく。 我々は、バイオプローブの超ハイスループット探索法として化合物アレイ「NPDepoArray」を開発した。 化合物アレイは、1枚のスライドガラスに、2-3千種の小分子化合物が光親和型固定化法により固定化してあり、目的タンパク質が結合する化合物をアレイ上で解析することが可能である。
array これまでに、1万5千化合物をアレイ化しており、現在も新たに化合物バンクに収蔵された化合物についてアレイ化を進めている。 我々は、開発した化合物アレイを用いて、疾患関連タンパク質のバイオプローブの大規模探索を進めている。

細胞の表現型観察で世界を変える化合物を見つける

Futamura
研究員
二村 友史

近年、化合物の力を利用して生命現象を解き明かすケミカルバイオロジー研究が注目されています。オリジナリティーあるケミカルバイオロジー研究を展開する上では、いかに面白い活性をもった化合物(バイオプローブ)を発見するかが重要です。
バイオプローブを発見するためにはスクリーニング系の確立が必要です。私たちは細胞の生き死にや形態変化などの「表現型」に着目した活性評価を実施し、興味深い生物活性をもった化合物を探索しています。
現在、以下のスクリーニングが進行中です。
1. iHOPEスクリーニングDetails
動物細胞や菌類、カビ、マラリアに対して試験サンプルが誘導する表現型を横並びにプロファイリングし、抗がん物質、抗生物質、抗マラリア物質を探索中
2. MorphoBaseスクリーニング(右図)
細胞は与えられた薬剤に応じて細胞の形が変化して死に至る。これまでに作用既知薬剤が誘導する細胞形態と薬理作用とを対応づけたデータベースを作製し、特異な形態変化を誘導する化合物を探索中
3. がん代謝スクリーニング
ある種のがんはグルコース飢餓・低酸素などのストレス環境(微小環境)において特殊な代謝機構を獲得し、生存に必要なエネルギーを捻出することがわかってきた。現在、がん微小環境下で特異的にがん細胞を殺す化合物を探索中

新規バイオプローブの探索と作用機構解析

kawatani
専任研究員
川谷 誠

私たちは、主に動物細胞の増殖や分化を制御する新たな生理活性小分子化合物の探索と作用機作に関する研究を行っています。細胞ベースあるいは酵素ベースのスクリーニングにより、RIKEN NPDepo化合物ライブラリーからユニークな生理活性を有する化合物を取得し、得られた化合物の作用標的や作用機序を分子レベルで解析します。また、疾患モデル動物を使って治療薬としての有用性を検証します。このような基礎研究を通して、新しい薬剤の開発を目指しています。現在、主に下記の研究テーマに取り組んでいます。

  1. 破骨細胞機能阻害剤の探索と作用機構解析
  2. 抗腫瘍活性物質GUT-70及びBNS-22の作用機構解析
  3. ヒト白血病HL-60細胞分化誘導物質の探索と作用機構解析
  4. 細胞表現型を指標としたハイコンテンツスクリーニング
  5. アミノアシルtRNA合成酵素阻害剤の探索

プロテオミクスを用いた小分子の作用解析

室井 誠
専任研究員
室井 誠

proteomics 様々な疾病の治療薬のリード化合物の多くが、細胞の増殖や分化などの表現形を阻害する小分子として探索されています。このようにして探索された新規小分子の標的分子を特定することは、多くの場合難しいのが現状です。
小分子の標的分子を特定する方法として、小分子と標的分子の物理的相互作用を解析する方法と、生物学的手法である細胞の表現型を解析することによって標的分子を推測・証明する方法の2つがあります。小分子を処理すると、それに応答して細胞内のタンパク質の合成、分解、修飾状態が変化します。
我々は、小分子が引き起こす表現型として、プロテオームの変化に着目し、標的分子に関する知見を得る研究を進めています。2次元電気泳動をベーストした2D-DIGEをもちいて、作用の明らかな小分子を処理したHeLa細胞のプロテオームプロファイル作製しており、当研究室で新たに単離された小分子の解析結果の比較解析を行っています。

糸状菌の二次代謝産物:生合成と共生における役割と応用

motoyama
専任研究員
本山 高幸

糸状菌(かび)はペニシリンやスタチンなどの医薬品や、日本酒などの発酵食品を作る能力を持つ。更に、植物や動物の病原菌や、かび毒生産菌としても知られ、多彩な能力を備えている。糸状菌は二次代謝産物の主要な探索源の一つだったが、最近、糸状菌ゲノム中に予想以上に膨大な数の二次代謝遺伝子が眠っていることが明らかになった。我々は、これらの一部は共生を含む生物間相互作用に関与していると予想する。糸状菌の二次代謝産物の生物学的相互作用における役割を明らかにし、相互作用に関与する二次代謝産物の中から農薬や医薬を開発することを目指す。
このプロジェクトは以下の三種の研究課題からなる。
(1)糸状菌の二次代謝産物の生合成遺伝子クラスターの活性化と生合成メカニズムの解析
(2)糸状菌の二次代謝産物の共生を含む生物間相互作用における役割の解明
(3)糸状菌の二次代謝産物からの農薬や医薬の開発