設置目的

ケミカルバイオロジーとは化学をツールとして複雑な生物機能の解明に挑戦する学問である。

日本では以前から天然物化学に強みをもっており、抗生物質をはじめとする多くの有用生理活性物質を世に輩出してきた。さらには、これらをプローブとして生体タンパク質の機能を解明するなど、ケミカルバイオロジーの先駆的研究成果をあげている。最近では、最新の化合物合成技術やゲノム研究等と融合して、網羅的に遺伝子産物の阻害剤や活性剤となる化合物を探索することが可能になっており、その応用分野も広がりを見せている。なかでも、遺伝子発現調節に関わるエピゲノム制御は新しい研究テーマとして注目されており、その機構の解明と共に、これを分子ターゲットとする医薬品の開発が期待されている。

従来は、大規模な化合物ライブラリーを整備して、創薬シードの探索を行うのは企業の研究であると考えられていたが、最近では、世界各国の公的研究機関(大学や国立研究所)で、化合物ライブラリーを用いた大規模スクリーニングが実施されている。その研究成果は、ベンチャー企業などを介して産業化に貢献している。しかしながら我が国では、ケミカルバイオロジー研究に必要とされる研究基盤、すなわち、化合物ライブラリーやスクリーニング施設などの整備が遅れ、さらには、ベンチャーを含む企業の開発研究活動に活用するための仕組みやサポート体制が不十分であった。また、研究成果や知的財産権の帰属やその利用法といった問題を整理しなければならない。

我が国でも、東京大学、理化学研究所などに公的化合物ライブラリーが整備され、産学を問わず化合物ライブラリーを使用できる環境が整ってきた。現状では、ケミカルバイオロジーの出口として医薬が注目されているが、農薬や食品産業にも応用可能な研究領域である。大きな可能性を秘めているケミカルバイオロジーであるが、化学と生物学の融合、アカデミアと産業界との連携によって、科学技術としての社会貢献を果たすことが可能となる。 このような状況下、アカデミアと産業界の委員によって構成される研究開発専門委員会の設置は、行政的にも重要なことであり、「日本におけるケミカルバイオロジー研究新展開」に関する情報・意見交換を行い、当該分野における日本の国際的優位性を維持、増強するとともに、将来の新規産業創出に結びつけることを目指す。