巻頭言 (2017年TRワークショップ:日本がん分子標的治療学会 News Letter)

理事長 長田裕之
理研・環境資源科学研究センター・副センター長

2016年4月、私は、ドイツベルリン郊外にあるハルナックハウス(マックスプランク協会の会議施設)に数日間滞在する機会がありました。この地はマックスプランク協会の前身であるカイザーウイルヘルム協会の発祥の地で、ハルナックハウス周辺には、Fritz Haber(1918 ノーベル化学賞)、Adolf F. J. Butenandt(1939ノーベル化学賞)、Otto H. Warburg(1931ノーベル生理学医学賞)などの錚々たる名前を冠した建物が残っています。60年も前にWarburg が研究を行っていた建物を、この目で見た時には、Warburg効果の謎を解きたいものだとファイトが湧いてきました。
 Warburg効果に関しては、多くの研究者が、その機構解明に挑んできましたが、全貌解明はまだ道半ばです。しかし、がん遺 伝子産物Mycやhypoxia-inducible factor-1 (HIF-1)などの関与が明らかになってきましたし、これらの研究成果から、新しいがん分子標的候補も示唆されてきています。今回は、上記のような背景を踏まえて、佐賀大学の木村晋也先生と慶應義塾大学の曽我朋義先生に「がんの代謝―革新的な治療法開発への新しい糸口」の実行委員長をお願いしました。
 がんとエネルギー代謝、がん幹細胞と代謝、がん特異的な代謝経路、腸内細菌とがんの代謝、そして代謝を標的とした創薬の関するセッションを組んでいただき、我が国を代表する研究者にご講演頂きました。一日会場で講演を聞いていれば、がんの代謝に関する最新の成果と今後の治療戦略の可能性を知ることができました。
 どの講演も興味深いものだったので、大変活発な質疑応答があって、充実したワークショップとなりました。座長、講師をお引き受け頂いた先生方にお礼申し上げます。また、本ワークショップを企画して頂いた木村先生、曽我先生はじめ実行委員の先生方のご尽力に深謝いたします。


 写真の説明: 建物はカイザーウイルヘルム細胞生理学研究所のOtto Warburg ハウス、銅像はWarburgの恩師であるEmil Fischer(1902 ノーベル化学賞)。

(日本がん分子標的治療学会 News Letter 2017年 巻頭言)