「守・破・離」で一人前の放線菌研究者に

日本放線菌学会
会長 長田裕之

日本放線菌学会の第12期理事会が、2012年4月に開催され、理事の互選により長田が会長に選出されました。新理事の方たちと一丸となって、「科学の楽しさを共有できる学会」を目指すとともに、「財政的基盤を強化すること」を目標として活動する所存です。会員の皆様にも、よろしくご協力のほどお願いいたします。
 ところで、私は学生時代に剣道をやっていたので、私の「ものの見方・考え方」に少なからず剣道の影響が出ています。その一つが、「守・破・離」です。毎年、新人(学生や若手研究者)が研究室に入ってきますので、新人に対して、剣道の教えを研究に置き換えてこの話をします。「守」とは、研究室に入ってきたばかりの最初の段階です。先ずは、師(指導者あるいは先輩)の教えを守ってもらいます。師の実験を良く見て、話をよく聞いて、師の考え方、技術、知識を吸収してもらいます。師の価値観までをも自分のものにできれば、第一段階は合格です。卒論から修士課程が修了する頃には、このレベルに達するでしょうが、ここで止まってはいけません。
 若者は、師の教えを守りつつ自分で勉強しなければなりません。基礎ができてくるに従って、若者は、自分で工夫するようになってきます。ただし、科学では独りよがりの考えでは成功しません。先人の築いた定説や学説を良く勉強しないと、その問題点を指摘できませんし、その先を行く新しい研究もできないのです。「守」の合格者だけが「破」の段階に進めるのです。「破」の段階では、師の教えを守るだけではなく、独自に工夫して、師の教えには無かった方法を試してみます。これが上手くいくようになったら、ほぼ免許皆伝と言っても良いでしょう(博士課程からポスドクレベル)。  師の教えを自分のものとし、それに独自のアイデアを盛り込めるようになれば、いよいよ最終段階「離」です。「離」の段階では、師から離れて、自分自身で学んだ内容を発展させていきます。この段階に至るには、師弟両方の優れた人格が必要です。師は弟子の才能を妬むことなく、独立を称えなければなりませんし、弟子は前人未到の道を切り開くために、必死の努力をしなければなりません。師を超える若者を育てることが、その道の繁栄につながります。
 本学会では、年次大会に加えて年二回の学術講演会を通じて、切磋琢磨するとともに、研究の楽しさを分かち合っています。放線菌に興味を持つ若者が入会したい学会に、そして「守・破・離」のステップを経て若者が一人前の放線菌研究者として育つ学会にしたいと思います。

(日本放線菌学会誌 2012年 巻頭言)